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AMSRやAMSR-Eのデータを利用するために、プロダクトやアルゴリズムの概要と、データ取得方法や利用可能なツールについて紹介します。

標準プロダクト利用上の注意事項

Level 1B 輝度温度プロダクト(Version 1.0)の注意事項

実施機関:宇宙航空研究開発機構(JAXA)

本文書では、AMSRとAMSR-EのLevel 1B輝度温度プロダクト(Version 1.0)に関する使用上の注意事項を記述します。センサ仕様の詳細(AMSR-E)については[1]を参照してください。

輝度温度の誤差に関わる事項

高温校正源(HTS)の物理温度が一様でないことから、HTSの有効放射温度を求めるために追加の補正手順を適用しています[2]。この補正手順の係数を導出する過程で、他データから得られる地球の海洋域の輝度温度を利用しています。6.9および10.65GHzの周波数チャネルについてはReynolds-OISST[3]を基に放射伝達計算により求めた輝度温度、18GHz以上の周波数チャネルについてはSSM/I[4]観測値に入射角・中心周波数の補正を施した輝度温度を、それぞれ用いています。よって、現在の校正方法によって求められる輝度温度の絶対値は、これらのデータ、放射伝達モデル、および比較方法に依存しています。現在の輝度温度プロダクトは、海域においてこれらのデータと1-2Kの範囲で合致していると考えています。

現在の校正手法で算出される輝度温度は、特に6.9GHz帯の高輝度温度域(例えば陸域等)で5-10K程度高めに出ている可能性があります。これは、処理過程で算出されるHTS有効放射温度が、6GHz帯において他の周波数より著しく高めになっていることとも整合性があります。現在、他の周波数チャネルにおける影響を含む詳細な検討を実施中です。これらの結果に基づき、Version 2.0では2次の校正曲線を適用する予定です。

6.9GHz帯チャネルでは走査端における系統的な輝度温度の低下(走査バイアス誤差)が見られますが、これはセンサの設計仕様によるものです。主ビーム視野への干渉により、6.9GHz帯における有効な走査角度範囲は-61度から+58度に限定されています[1]。海域での評価によれば、走査開始端(衛星進行方向を向いたときの走査右端)において約1.5Kの低下があり、20点程度にわたり影響が見られます。この現象はVersion 1.0では補正されていません。目的に応じ、データ利用者側で除去、もしくは補正することをお勧めします。

低温校正源(CSM)の校正カウント値に、他の放射源からの混入が確認されています。ひとつはCSMの視野に直接入る月放射の影響ですが、影響を受けたカウント値は除去され、外側の有効なカウント値の内挿により補間されて校正処理に用いられています。地球の輝度温度に相関のある混入も確認されています。これは、一次放射器がCSMを照射する際のスピルオーバ分のエネルギーが、主鏡による反射を介して地球表面を見ていることに起因している可能性があります。L1B処理では、この仮定に基づいて統計的に求めたスピルオーバ係数を用いて補正を行っています。

現在の校正処理は昇交パス、降交パス別に適用されていますが、校正方式の限界のために、昇交パスと降交パスの繋ぎ目に輝度温度の不連続が生じている場合があります。

現在のラジオメトリック校正については、[5]に記載されています。

幾何誤差に関わる事項
絶対的な幾何誤差は、予め定めた領域において89GHz (A-scan)の輝度温度マップと、陸海フラグの情報を比較することにより評価されました。陸海フラグはL1Bプロダクトに含まれています。AMSR-Eについては、昇交パスと降交パスで異なる誤差の傾向が見られました。誤差の大きさは、昇交パス(降交パス)について衛星進行方向に約4km (2km)、走査方向に約5km (-5km)でした。走査方向の誤差は緯度引数(あるいは軌道上位置)に相関があります。また、これらの誤差は5kmまでの季節変化を伴っているとみられます。89GHz A走査と他の低周波チャネルの相対レジストレーション誤差は、最大で走査方向に5km程度となっています。AMSRについては、89GHz (A-scan)に関する絶対的な幾何誤差と軌道上位置の間に明瞭な相関は見られず、その大きさは衛星進行方向に1-3km、走査方向に3-5km、89GHz (A-scan)に対する低周波チャネルの相対レジストレーション誤差の傾向と大きさは、ほぼAMSR-Eのそれと同じであることが分かっています。

Version 1.0では幾何誤差に対して補正を施していません。上述の解析結果を基に、Version 2.0は経験的な補正を適用する予定です。

その他
6.9GHzチャネルでは、電波干渉(RFI)と考えられる信号が観測されています(10.65GHzにもみられますが、6.9GHzにより顕著に現れています)。RFI領域は日本、欧州、中東、アフリカ南部などを含む世界中に存在しますが、北アメリカで最も顕著に観測されています。いくつかの諸島周辺を除けば、現在のところ海域におけるRFIの影響は非常に小さいと考えられます。なお、6.9GHz帯は地球探査業務(受動)に優先的に割り当てられた周波数帯ではないことにご留意ください。Version 1.0では、これらのRFIの除去もしくは補正は行っていません。AMSR-Eに関しては、米国研究者により論文が発表されています[6]。

また、これはセンサの誤差ではありませんが、6.9GHzと10.65GHzでは、海域においてサングリッタ(太陽放射の散乱)が顕著にみられます。AMSRでは降交パス、AMSR-Eでは昇交パスで観測されます。

情報
AMSRとAMSR-EのL1Bプロダクトに関する一般的な情報については、以下のWebsiteを参照してください。

  1. Aqua/AMSR-E関連情報
    http://www.eorc.jaxa.jp/hatoyama/amsr-e/index.html


  2. AMSR/AMSR-Eホームページ
    https://sharaku.eorc.jaxa.jp/AMSR/index_j.html
参考文献

謝辞

SSM/IデータはGlobal Hydrology and Climate Center, Global Hydrology Resource Center (GHRC) (米国、アラバマ州ハンツビル)、Reynolds OI-SSTデータはNOAAから提供を受けました。